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Credo, quia impossible est

ありえないもののために
出来事は出来する。 それは〈わたし〉に出来る。 そして物語が出来上がる。
それは〈美しい現実〉という物語である。 (三重人格複合体NoVALIS666






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[文芸小品]
ありえないコップのおはなし(author: NoVALIS666 )
Cheshire cat 形而上学的最終戦争ハルマゲドンの宣戦を布告する。
 それは次のような爆弾発言である。
 私はテーブルの上にコップを置き、
 あなたにこう言うのである。

 「ここに、コップがある」と。

 これが爆弾発言だ。あなたは首を傾げる。
 何故それが爆弾発言であるのかがあなたには分からないからである。

 それは爆弾発言であるにしては、
 余りにも静かでそして当たり前のことを言っているだけに過ぎないと
 あなたには思われるからである。

 しかし、あなたは知らないのだ。

 あなたはそのとき既に私の放った爆弾に爆破されて、
 跡形もなく消え失せてしまった後なのだ。

 そのときあなたは私がテーブルの上に伏せて置いたもう一つの、
 あなたには決して見えない、背後からの形而上のコップを被せられて、
 無限小の矮人に縮み、既に死んでしまっていて、
 あなたには決して見える筈のない、
 決してそこにはありえない大爆発してしまったコップ爆弾が
 依然としてそこにあるという
 見果てぬ夢、見破れぬ夢を
 現実と取り違えて見ているだけに過ぎないのである。

 あなたは不思議そうに、
 最早あなたの手前にはいない
 形而上学的テロリストのありえない残像に問いかける。

 「一体、今のどこが爆弾発言なんだい?」と。

 するとあなたの手前にいる無気味な男は
 冷酷な笑みを浮かべてこう言うのである。

 「ここに、確かにこのコップはある。
  僕も君もここにいる。
  ……しかし、そんなことは決してありえない!」

 そのもう一人の不吉な私が「ありえない」と言った瞬間に、
 そのコップは魔法のように忽然と消え失せ、
 消滅したコップを眺めていた二人の男も大宇宙も、
 まるでブラックホールに吸い込まれるようにして、
 コップの影のなかに呑み込まれていってしまったのだった。

 こうしてたった今、あなたは抹殺され、
 私の創造した形而上学的絶対無のなかに還元されて、
 無に帰されてしまったのに、それを知らないのである。

 あなたは既に存在しない。
 恐るべき虚無のなかで、
 無くは無い、無くは無いと
 往生際の悪い亡霊のように
 世迷い言の空しい呪文を唱え続けるが、
 二度と決してその虚無からは這い出せないし、
 そのあなたの存在を挟み撃ちにして
 無限に無化し続ける絶対無の悪夢を、
 「無いのだ」ということを無くすことは出来ないのだ。

 無くは無い、ということによって、
 無を無くすことは不可能である。
 あなたの存在は既に無力な否定に過ぎず、
 無くは無い、といって、無を追い払おうとしながら、
 却って無を無くてはならないものとして引き寄せる、
 無の底無しの泥沼に、
 恐怖の〈否のブラックホール〉の蟻地獄に
 無限落下してゆくだけなのである。

 それは無でありながら無ではあらぬもの、
 〈非無〉という、〈存在〉の無間地獄である。

 〈非無〉という二重否定性は、
 〈存在〉の定立に復帰しないで、
 〈存在〉を〈虚無〉のなかに誘拐してしまい、
 そして無化=抹殺してしまうのである。

 あなたはどこにいるのか。あなたはここにいる。
 つまり私が握り潰して
 手飼いの〈虚無〉の魔物に食わせてしまった
 無の屑の微塵のようなちっぽけでつまらない亡霊宇宙のなかにいて、
 無くは無い、無くは無い、
 と哀れっぽく唱えながら、
 唱えれば唱えるほどに
 無の無化する残忍な牙が己れに迫っては
 自分を齧り取ってゆく光景を見て、
 その度に血の凍るような恐怖の叫びを上げるのである
 ――ありえない! ありえない! ありえない!と。

 私は掌中の小さな虚無の奥底の
 非無の微粒子のなかのあなた、
 虚無よりも無限に小さい非無のなかの、
 それより遥かに無限に小さいあなたの
 無に魘される無様な様子を
 冷酷に見下ろして嗤っているのである。

 それを私の手前の
 あなたにそっくりの無気味な男に見せると、
 その男もあなたを見下ろして、
 私よりもおぞましい残忍な笑みを浮かべて
 あなたを冷笑しているのである。

 あなたは非無と虚無を通して
 その無化よりも恐ろしい、
 それを見る位なら死んだ方が遥かにましなもの、
 死ぬよりも辛いのに、
 それを見ることが死という最後の救いですら
 あなたから奪い去り、
 全てを不可能にしてしまう最悪の形而上の悪魔を見るのだ。
 あなたはそれを見ると、
 もはや「ありえない!」と叫ぶ力さえ失うのである。
 顔面蒼白になり両目を哀れな恐怖に皿のように見開いたまま、
 虚無よりも苦い絶望の言葉を呑み込むのだ、

 〈別人〉という戦慄すべき言葉を。

 そのときあなたは、
 その〈非無〉のなかで紙のように白くなり、
 死よりも残忍な力であなたの精神を崩壊させる〈狂気〉という、
 実は〈別人〉よりも恐ろしい
 背後からいきなり襲い掛かる不可視の邪神に襲われ、
 頭からサーッと砂と塵になって散り敷いていってしまうのである。

 こうしてあなたは完全に滅亡し、
 この私の形而上の魔法の前に、
 いとも簡単に敗れ去ったのである。

 私はフッと掌中の虚無をまるで
 薄汚い塵でも払うように吹き消すと、
 まるで何事もなかったかのように、
 コップに汲まれた水を飲む。

 すると〈別人〉はこう言うのである。
 「やっとあの嫌な奴がいなくなってくれて、せいせいしたよ。
  今日からはこの僕が〈本人〉さ」と。

 そりゃあ、良かったね、と私は言い、
 テーブルの上にコップを置く。
 まるで何事もなかったかのように全ては終わった。
 単にあなたが消えちまっただけだ。

 このとおり世界には何の変化もないが、
 もうかつてと同じ世界ではないのである。
 かつての世界は二度と決して戻らないのだ。
 あなたがもう存在しないのだから。

 私はテーブルの上に空っぽになったコップを置く。
 このコップは実在しており、
 そしてこの私も〈別人〉君も実在している。
 この世界は実在している。
 ただあなただけが実在に生き残り損なったのだ。

 私はテーブルの上の実在のコップが
 昼下がりの光のなかに影を引いているのに気づく。

 魔法使いである私はそこで、
 そのコップを取り上げて別の所に置き、
 テーブルの上に、まるで薄黒いシミのようにして
 残ったコップの影を暫く眺める。

 その影のなかに無数無限のコップの亡霊どもが犇めき合い、
 その影から抜け出して、実在化しようともがいているのが見えるが、
 薄っぺらな影の蓋は思いの他に重いらしく、
 コップの亡霊どもが一丸となって
 それに何度体当たりを食らわせてもびくとも動かないのだった。

 「何だか、哀れなものだね」と〈別人〉君は言うのだった。
 「自分たちも有り得る、有り得ると思っているのに、
  一向にこの影の中から出て来られやしない。
  それなのにそれが出来ると信じて疑わない」

 「それがもののあわれというものだよ」と私は言って、
 オシボリを取ってその影を拭き取ってしまう。

 可能性のコップどものギャッという悲鳴がかすかに上がった。
 テーブルの上には、影はまさに影も形もなくなってしまった。
 こうして彼らは一瞬に有り得なくなってしまった。

 〈非無〉を消すのは赤子の手をひねるより簡単なことなのである。
 それは無を消去してしまえばいいだけだからである。
 実在というのは無のようでは有り得ないものなのである。
 だが無の中にいる連中にとってはその不可能性は永遠に
 不可視のままなのである。
 さもなければ彼らは有り得ない。
 しかしどれほど有能で有り得たとしても、
 無能な連中は所詮は強がるだけで何も出来ないのである。
 現実は厳しいのだ。

 「しかし、奇妙なものだね。コップのないその影っていうのはさ」
 〈別人〉君は腕組みして、ウンウンと一人で何か頷いている。
 「ほら、あの〈猫のいないニヤニヤ笑い〉みたいなもんじゃないか。
 実に奇ッ怪だ。どうしてそんなものが今ここにあったんだ」

 「そうだね、これが自然だ」と私は再びテーブルにコップを置いた。

 コップの底からは再び黒い影の根がにょっきり生え出て来ていた。
 「……ほら、こうすれば、ここにこうして」と私は言って目を上げた、
 「影というのは自然に出来るものなのだ。」

 〈別人〉君は目をパチクリさせている。

 私は続けた。「しかし、僕にはこうすることも出来るのだ!」
 言うが早いか私は頬を膨らませ、コップにフッと息を吹きかけた。
 するとガラスのコップはするすると底の方から溶けるようにして
 テーブルの上に出来たコップの影のなかに沈んでゆき、
 やがて小さなギャッという叫びを残して、
 コップのないその影にすっかりペロリと平らげられてしまった。

 〈別人〉君の唖然とした顔。

 息を呑み、ややあって、
 彼はテーブルの上に残存した
 最早何の影だったか分からない
 薄べったいシミのようなものから私の方に目を上げ、
 ニヤニヤ笑うその気味の悪い人物に恐る恐る尋ねた。
 「こりゃ一体、どういう手品なんだい?」

 「手品じゃないよ」と私は言った。
 「ここには何の種も仕掛けもないのさ。
  出来ると言えば、それは自ずと出来上がる。
  元々、出来事というのはそのようにして起こるものなのだ。」

 「しかし、そんなことはありえない!」
 〈別人〉君は悲鳴を上げた。
 「これじゃあ、全く魔法じゃないか。
  非科学的だ! ナンセンスだ! 
  こんな『不思議の国のアリス』みたいな
  怖くてデタラメな世界があってたまるか!
  コップを元に戻してくれ。
  僕は気が狂いそうだ。
  こんな〈猫のいないニヤニヤ笑い〉みたいな怪談、やめてくれよ!」

 「それはこんな顔だったかい?」私は顔面をつるりと撫でた。

 すると、目も鼻も口もない
 のっぺらぼうの顔すらもない、
 全き虚無の顔が現れて、それがニヤニヤと笑っていた。

 それはのっぺらぼうより恐ろしいものである。
 全き虚無は単に全く無いだけであるなら、
 パルメニデスの一者と同様に非常に変で奇妙であっても、
 底恐ろしいものではない。

 けれども虚無が単に全く無いだけではなくて、
 口も無いのにニヤニヤ笑いを載せている光景は本当に恐ろしい。
 その消えてしまったニヤニヤ笑いは
 消えてしまっているものだからこそ
 二度と決して掻消せないものとして中空に刻印されてしまうからだ。

 ルイス・キャロルの創ったチェシャ猫という化け猫の怪物は、
 パルメニデスが存在の自同律の根底の不可視のパラドクスから創造した
 オン(存在)とやらいう名のヘン(一者)な魔物の対極に
 双曲線状に浮かび上がる存在論的妖怪であるが、
 「存在が存在するなら何も存在出来ない」という
 パルメニデスのパラドクスよりも、
 「虚無を無化するためには虚無を欠かすことができない」という
 無の還元不可能性(必然性)を論証したルイス・キャロルの
 論駁不可能なパラドクスの方が実は遥かに恐るべきものなのだ。

 存在に戦慄するものは、
 未だ真に必然的なものを知らぬ二流の思想家である。
 存在よりも必然的で恐ろしいものは虚無であり、
 虚無を滅ぼさぬ限り、存在は無化することはできない。
 存在が無化できないのは虚無を無化できないからである。

 しかし、もし虚無が無化されてしまうならば、
 存在はそのあるがままに存在不可能な生ける屍と化する。
 虚無は存在の奥底に地鳴りする存在の生命であり、
 存在を存在させているのは実は虚無なのだ。

  虚無がなければ存在はありえない。
 虚無を無くすことの不可能性を起点にして
 存在は常に既に存在することへと湧出するが、
 その背後の舞台裏では無からの創造が絶えず行われているのである。

 しかし存在自身はこのことにブラインドである。
 「無からは何も生じない」という存在の確信は、
 存在自身のどうすることもできない
 振り向くことの不可能性への呪縛から生じている。

 存在はそれを知ることができない
 ――「《自分は存在する》としか思えない」ということだけによっては、
    実は決して存在することはできないのだ、という残酷な真実を。

 そのような意味での「我思うが故に我在り」とは迷信であり、
 願望表現であり、ただの敬虔な信仰告白以外の何でもありえないのである。

 存在の自分自身の非在への無知、
 実は存在なんか決して真に存在せず、
 むしろ真に存在するのは虚無なのだという
 見破れぬ悪夢の底で、虚無は存在を永遠に永遠に冷笑し続けるものなのである。

 虚無は存在に優越する。
 私は〈非無〉を作ってそれをいとも易々と証明した。
 かくして存在は死んだのである。

 しかし、この虚無にすら優越する何者かがなおあって、
 虚無は決してそれに打ち勝つことはできない。

 神というものは確かにいるのである。

 何故なら、虚無は結局可能性のなかでしか全能でありえず、
 可能性という根を絶てば、現実性を根絶やしにできると信じているが、
 現実性には直接まったく手出しをすることはできないのであるから。

 私はテーブルの上の薄汚い「コップの無い影」を
 さっと拭き取ると、ポケットから今度は
 「可能性という影のできない現実のコップ」を
 取り出してテーブルに置いた。そして再びこう叫んだ。
 
 「このコップはありえない!」

 しかし、見よ! 
 コップはそれで木端微塵に粉砕されるどころか、
 微動だにせず、テーブルの上に鎮座ましましているではないか!

 ありえなくとも、なおもまだそのコップはある。
 それは不可能なコップだが、別に非現実なコップというわけではない。
 それどころか純粋に全く現実的なコップなのである。
 コップはたんにありえなくなっただけであって、
 現実のなかから消えて無くなってしまうわけではないのだ。

 したがって、次のように結論することができる。
 現実にはありえないことしか起こらない。
 この現実は奇蹟であり、奇蹟が起きれば虚無の悪魔は
 尻尾を巻いて退散するのだ。

 したがって、神は確かに実在する。
  奇蹟というのは、これが現実であるということだ。
 まことに神の御業は偉大である。
 この超越的で神的な力の前で、
 万物を無化して勝ち誇る冷酷な虚無の悪魔は全くの無力なのだ。

  こうして、ギャッ! と叫んで〈別人〉君は消滅し、
 私の前に立っているのは再び紛れも無く〈本人〉のあなたである。
 あなたは眠りから覚めたばかりのように、
 何だか目をしょぼつかせながら、私に言う。
 
 「アレレ、ごめん…つい、なんか、ウトウトして
  さっきまでどうも何か変な夢、みてたみたい……で、何だっけ?」

 《奇跡は誰にでも一度おきる、だがおきたことには誰も気がつかない。》
                     (楳図かずお『わたしは真悟』)

 然り、あなたは気がつかない。
 自分が可能性の夢を見ていたことも、
 それから覚めたことすらも。

 全き現実の中にあって、
 人は可能性という論理のまどろみから
 そう簡単に目覚めることはできないのだ。

 たしかに今、奇蹟は起きた。
 だが、あなたは自分が起きたことにしか気がつかない。
| 文芸小品 | 02:41 | NoVALIS666 | comments(0) | trackbacks(0) |
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